H30年労基法改正と45時間超の固定残業代


固定残業代の有効性が争点となった裁判例の中には、その固定残業代が予定している残業時間が著しい長時間であることを理由に公序良俗違反として有効性を否定するものがあります。

たとえば、イクヌーザ事件東高判H30.10.4労判1190号5頁は、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とする定めについて、「実際には、長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき、通常は、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当」と判示しています。

 

この点、平成30年労基法改正により、時間外労働時間の上限が原則として月間45時間と定められたことは大きな意味を持つと考えられます。

改正された規定の施行(2019年4月1日、ただし中小企業は2020年4月1日)後は、月間45時間を超える時間外労働は三六協定の締結によっても合法化することができないのが原則です。臨時的な特別の事情がある場合には最大100時間未満まで可能とされていますが、月間45時間を超えることができるのは年間6回までとされています。

しかるに、月間45時間を超える時間外労働(たとえば60時間)に対する割増賃金に相当するものとして固定残業代を毎月支給するという合意をするとすれば、年間6回までという上記の制限に違反する時間外労働があるべきことを予め予定していることになります。

そうすると、先の裁判例が述べるように「実際には、長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき」、少なくともそのような特段の事情がない限り、上記のような合意は、公序良俗に反して無効である、とするのが法律の趣旨に合致する妥当な解釈であると考えられます。

 

以上から、今後は、45時間を超える時間外労働に対する割増賃金に相当するものとされた固定残業代は、そのことだけで、固定残業代としての有効性を否定されることが一般的になっていくものと推測されますし、そうなるべきものと考えます。