最高裁は、労基法37条が時間外労働等について割増賃金の支払いを義務づけている趣旨について、①使用者に割増賃金を支払わせることによって時間外労働等を抑制すること、②労働者への補償を行うこと、の2点にあるとし、これらの趣旨に照らし、割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合には、労働契約における賃金の定めにおいて、「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と割増賃金にあたる部分を判別することができることが必要であるとしています(医療法人社団康心会事件最判H29.7.7労判1168号49頁)。「判別」ができないような支払い方では、時間外労働等の発生・増加によって使用者の腹が痛まず、時間外労働等の抑制にならないし、時間外労働等をした労働者に報いることにもならないから、ということでしょう。
上記最判では、割増賃金を年俸1700万円に含めることが合意されていたのみで、そのうち割増賃金に当たる部分がいくらか定められていなかったという事案において、上記の「判別」ができないとされ、割増賃金の支払いがあったとは認められませんでした。
また、定額手当制の場合について、最高裁は、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約書等の記載内容のほか、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきであるとしています(日本ケミカル事件最判H30.7.19労判1186号5頁)。
すなわち、割増賃金にあたることを明示して定額の手当が支払われている場合、賃金のうちの割増賃金にあたる部分がいくらかは明らかだともいえますが、そのような場合でも当然に割増賃金の支払いとして認められるものではない、ということです。労働者の実際の時間外労働等の状況に照らし、当該手当が割増賃金として相当な額でない(恒常的に過少で差額精算が行われていない又は恒常的に過大である)場合には、時間外労働等に対する対価として支払われていると認めることが困難になり、結果として「通常の労働時間の賃金」と割増賃金とを「判別」することができないと判断されるものと考えられます。